3年計画の初年度(本年度)の研究において、実態把握に重点を置いた。上場企業4社を含む5社を訪問して、人事担当者からヒアリングを行った。役員報酬の水準に関しては、生産労働者との報酬格差は1960年の4正倍から2007年には344倍まで高まった。報酬格差は、90年代以降には100倍を超えたが、その背景には、ストック・オプションによる報酬増が大きく影響している。最近の役員報酬の構造をみると、基本給が18%、ボーナスが24%、株式報酬が58%である。役員報酬を決めるのは社外取締役からなる報酬委員会であり、その委員および委員長は取締役会が指名する。委員数は3〜5人、年間3〜5回の会議、1回の会議時間は2時間程度である。会議資料は事務局を務める人事部が、資料を収集して作成する。役員報酬に詳しいコンサルタント会社のサポートを受けるのが一般的である。報酬委員会の運営に際して報酬委員会憲章を用意し、責務を定めている。岡業同格の他社の役員報酬水準および企業業績を主として参考とし報酬水準を定めるのが共通している。基本給、ボーナス、株式報酬以外にも、M&Aなどにより余儀なく退職する時の補償である役員退任給付や福利厚生内容の決定も報酬委員会である。世間相場を参考とするのは一般社員報酬の場合も同じである。報酬委員会は、役員以外の報酬制度についても決定権限を有しているケースもある。株主総会資料に役員報酬の詳細が記述されるが、その作成責任も報酬委員会にある。原案は人事部が作成し、コンサルタントの意見を入れて修正し、さらに報酬委員会が検討する。最終的な決定は、役員報酬の水準や内容を含めて取締役会である。なお、2008年秋の金融危機発生以降、役員報酬の高さとその問題が大きく報道されるに至り、本研究に役立つ情報が様々なチャネルを通じて入手できることとなった。
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