3年計画の第2年度(本年度)の研究において、前年度に続き、役員報酬制度の実態把握を推進した。この点に関して、アメリカで企業を訪問すると共に、役員報酬に関する研究者を訪問し、役員報酬に関する実情などについて情報収集した。役員報酬が高水準であることの現時点での主たる予想仮説は、(1)上位5名の報酬公開制度が報酬の低かった他社役員の報酬を引き上げたこと、(2)企業が雇うコンサルタントが市場平均以上の役員報酬を提案する傾向があること、(3)報酬が1億円までは事業経費であると認める法律を制定したこと、(4)報酬委員会の委員に高報酬の他社役員経験者が多いこと、(5)ストック・オプション制度の導入、(6)役員労働市場がタイトで流動的であること、などである。人材確保の観点から、病院などの非営利団体や非上場企業の経営者の報酬もきわめて高い傾向にある。株価低迷時に株主は損失が生じるのに対して、役員には損失の生じないことから、株式を保有させる役員報酬システムが広がってきた。世論の批判を受けて、役員報酬を低めようとするアメリカ政府の努力もあるが、引き続き高水準で推移するとする見方が強い。また、役員報酬と一般社員との報酬格差に関連して、底辺労働者の賃金実情に関する調査研究も実施した。アメリカでは労働組合を訪問し、最低賃金の引き上げに関する取り組み状況を調査した。底辺労働者の賃金改善に向けて、生活賃金運動の広がりがみられ、また市レベルで最低賃金を設定する動きも継続している。 研究の途中経過に関して、2009年7月には佐藤ワークショップ(佐藤隆三ニューヨーク大学名誉教授を中心とする研究会)で報告し、参加者からコメントをいただいた。また、2009年11月には底辺労働者の賃金実情に関連して、アメリカの最低賃金制度に関する論文を公表した。
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