研究概要 |
本研究では、チーム生産に伴う問題を解決する方法として、グループ内における規範や凝集性というような社会的な共通の信念ないし慣行が、経済的成果を生み出すためにいかに有用であるということを理論的なモデル用いて示すことにある。すなわち、ある一人が規範となっている努力水準を怠れば、グループの他の人に迷惑がかかる。そのため、逸脱者は同僚の圧力を感じる。逸脱者に課される制裁は必ずしも金銭的なものとは限らず、説得、批判、追放、ときには肉体的処罰という形をとることもある。このような慣行・制度がいかに有用であるかを示す。特に本年度においては、既存・先行研究のサーベイを行うことで、次年度以降のモデル構築および実証研究の基礎的な研究を行った。集団規範および社会規範の研究は、伝統的には、経済学・経営学よりも社会学の研究分野とみなされてきている。そして、経済的なインセンティブによる方法では「ただ乗り」の防止という点が強調されてきた(例えば、Holmstrom(1982)はチーム生産に伴う成果をチームのメンバー全員で配分するという条件の下では、チーム生産は効率的生産を達成できないことを証明し、効率的生産を達成するには監督者の存在が必要であることを示した)。一方、社会学・心理学的な研究(Whyte,Zalesnik,Likert,Seashore)においては記述的な分析が多い傾向がある。しかし、最近、集団・社会規範を経済モデルに統合する新たな試み(Akerlof(1980),Undbeck(1995,1997,1999),Binder & Pesaran(2001))が登場するに至っている。次年度以降は、チーム生産とモラル・ハザード行動および集団規範と集団凝集性に関連する文献の体系的なレビューを継続しながら、単階層組織と多階層組織の比較をモニタリングとインセンティブ制度という観点から行う。
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