本年度の中心的な研究実績は、研究実施計画にある通り、研究計画で提示した4段階仮説の検討を行うことである。第1に、コペンハーゲンにある国立芸術博物館資料室での資料調査等を含めて、家具産業の発展に関する各種資料の調査を行った。第2に、デンマークにおける代表的な家具メーカー2社(大量生産製品中心の企業とクラフト生産を行う工房)を訪問し、家具メーカーの戦略や、クラフト生産のプロセス等のヒアリング調査を行い、それぞれの企業で工場見学も実施した。並行して、家具の業界団体等にもヒアリングを行った。第3に、NYにあるMOMAとコロンビア大学を訪問し、スカンジナビアンデザインの発展に米国市場やMOMAが果たした役割についての聞き取り調査を行った。本年度は研究初年度にあたるため、デザイン産業の中でも特にデンマークの家具業界を対象として、その世界的競争優位を構築するにいたるプロセスや業界の全体像を把握するよう努めた。調査の結果わかってきたこととして、国の政策が果たしてきた機能の重要性や、デンマークの中心産業である家具業界の国際的評価と企業経営の実態との間には乖離が見られることも明らかになってきた。現在、デザイン産業の国際移転が顕著な動きとなっており、また産業内での分業体制において昔ほどデザイナーと工房との間での知識のコラボレーションが行われていないことなどが問題として挙げられる。後者の理由として、家具に用いられる素材が変化したことによりかつてとは異なった形でデザイナーとメーカーとの間での役割分業が行われていることなどが明らかになってきた。これら質的調査を元に、年度終盤から、研究実施計画で立てていた仮説を一部修正し、来年度以降に実施予定である量的調査にむけて、モデルの立案を開始した。
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