本研究は、近年国際的に高く評価されている北欧におけるデザイン産業が、世界的な競争力を構築するに至った戦略を、国家政策、個別企業の取り組み、デザイナーやクラフトとの関係の変化などの側面から明らかにすることを目的とする。 本年度は、日本の家具産業の現状調査により、従来からの水平・垂直分業構造を把握するとともに、北欧の家具産業と日本の家具産業との発展を比較した。対象として、普及品市場におけるドミナントであるIKEAと日本で近年急速に発展してきているニトリのビジネスモデルとを、デザイン、生産、物流の視点から調査分析した。両社の急速な成長が、従来の分業体制(製品毎の地域分業、生産・卸・小売という垂直分業)を中心としたビジネスモデルからSPAへの転換圧力として作用し、また顧客サイドでも、かつてのようにいい家具を長く使う姿勢から、ライフスタイルの変化に従って約10年サイクルで家具を買い替えるという姿勢へと、消費者行動にも変化をもたらした。こうした変化は日本に限らず、世界中で起きている。こうした世界的な業界構造や消費者行動の変化に伴い、日本でも北欧でも、熟練工による高級家具メーカーの多くが淘汰された。また22年度は、日本とデンマークでそれぞれの国を代表するクラフト企業を訪問し、製造プロセスの違いや、熟練工の教育体制、今後の戦略展開に関する展望等についてヒアリングした。両社は戦略的展望がそれほど異なる訳ではないものの、技術伝承については、日本と北欧での国の政策や制度による影響が強く見られる。
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