本研究は、日本の上場企業を対象とした数量データを用い、90年代以降に大きな変革を伴った賃金分配システムの「変化の実相」、「変化を促進した要因」、そして「変化のもたらした結果」に関する実証的な分析を行い、企業パフォーマンスを高めるための個別制度と全体的な経営管理システムとの関係枠組みを浮かび上がらせることを主たる目的としている。 平成20年度は、上場企業を中心とする約400社の賃金制度改革に関する個別調査データを利用し、2000年以降の日本企業の多様な賃金制度改革について、その特性の強化に寄与した要因を検証した。主な知見として、まず近年の改革では「評価の厳格化」と「評価による降格・降給」が中心的施策であり、先に導入された施策が次の施策の導入条件となっていることが示唆された。次に、これら多様な施策の実施段階情報の特性を分析したところ、一つは改革の総合的な進展度が、またもう一つは脱年功の対応の違いによる改革プロセスの多様性という特徴が現れた。さらに、過去の企業業績、需要関連指標およびガバナンスの変化が、こうした改革の進展度および多様化に寄与していることが示された。 また、こうした結果と先行研究の知見から、日本企業の賃金制度は、短期的・市場連動的な要素へ評価幅を拡大する動きが戦後一貫して行われ、近年の成果主義的な改革もその流れに位置づけることができる一方、長きに渡って常に脱却を志向されながらも賃金制度に存続し続けてきた年功・属人要素を廃止・撤廃する動きが顕著になっていることが近年の改革の特徴の一つであることが明らかとなった。 これら研究成果は、随時、ワークショップなどで報告し、現在、学術論文(2本)への掲載のため、現在、投稿中である。
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