本研究は、日本企業のデータを用い、90年代以降に大きな変革を伴った賃金分配システムの「変化の実相」、「変化を促進した要因」、そして「変化のもたらした結果」に関する実証的な分析を行い、企業パフォーマンスを高めるための個別制度と全体的な経営管理システムとの関係枠組みを浮かび上がらせることを主たる目的としている。 平成21年度は、日本企業において、短期的・市場連動的な要素へ評価幅を拡大する賃金分配システム改革の動きが進み、脱却を志向されながらも賃金制度に存続し続けてきた年功・属人要素を廃止・撤廃する動きが顕著になっていることが近年の改革の特徴であるとの前年度の研究成果を受け、「そのような変化がもたらす結果」を中心に研究を進めた。ここでは従業員、特に技術者の能力開発や個人の仕事パフォーマンスへの影響を分析の中心課題として取り上げた。 主たる知見は次の通りである。まず日本企業において近年、従業員のインセンティブシステム再構築のために成果主義的な賃金分配システムへの傾向が強まっているが、先行研究同様、従業員のやる気を高めるには成果主義的な傾向を強めるとともに能力開発機会の提供などを補完的に運用する必要のあることが明らかとなった。また企業が、能力開発や仕事環境の整備を行うことは従業員個人の職務遂行能力を高め、それが従業員個人の仕事パフォーマンスの向上に欠かせない要素であることが確認できた。しかし実際には能力開発を企業責任から個人の責任へとシフトさせている企業が多く、またそうした企業では業務の多忙によって自己啓発機会が乏しいといった状況に従業員が陥っている。つまり現在、成果主義化を進めている企業の多くにはインセンティブ構築を目的にしておきながら、その効果を生み出す条件整備が十分ではなく、導入目的が達成されない可能性が高いということを示すものである。
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