本研究は、90年代以降に大きな変革を伴った賃金分配システムの「変化の実相」、「変化を促進した要因」、そして「変化のもたらした結果」に関する実証的な分析を行い、企業パフォーマンスを高めるための個別制度と全体的な経営管理システムとの関係枠組みを浮かび上がらせることを主たる目的としている。 最終年度となる平成22年度の研究成果は、まず90年代以降、日本の製造企業において、研究開発活動が活発な企業ほど外部資源の利用が拡大し、研究開発の内部と外部の補完関係が存在する。また大企業ではグループ企業を活用とした外部資源の活用しており、そうでない企業との差が大きいことなどが示されるなど、研究開発を中心とした事業戦略が変化してきたことが明らかになった。この結果を受け、電機・電子・情報関連企業における事業戦略と成果主義との関係を検証したところ、成果主義を導入することを促した要因は、従来から指摘されてきた経営環境の悪化や企業統治の変化だけでなく、事業戦略が短期的な内容に変化したことも影響していることが明らかとなり、成果主義が戦略に従って導入されていることが示された。さらに賃金分配システム変更が及ぼす人件費および企業パフォーマンスへの影響についての分析を行ったが、その因果関係の特定まで至っていない。現在、分析手法を変更して検証中であり、近々にその研究成果を公表する予定である。 最後に、変化のもたらした結果として、成果主義の導入は能力開発等の補完的な制度との併用が重要であることは、これまでの本研究成果のほか、多くの先行研究によっても明らかにされている。しかし有効な能力開発のあり方についての議論は十分とはいえない。そこで平成23年度以降、新たな助成を受け、賃金制度だけでなく、教育訓練制度を含めたより広範な人的資源管理に注目し、労使双方にとって有効な人材マネジメントのあり方についての研究を実施する。
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