本研究は社会的流動性とその背景にある社会的要因についての国際比較を目的としている。平成21年度前半は、当地で就業する研究者、技術者の就業環境について聞き取り調査を行った。カリフォルニア州の雇用制度において、経営者が被雇用者個人を解雇するには、多くの正当性を示す証拠の準備を求められ、契約、業務指示、業績、メール等全てが評価、証拠として蓄積されているという。証拠固めが不十分であると企業に対して訴訟を起こし、賠償請求を行う被雇用者が多く、またそれが可能であることを知らせる弁護士がいる。そのため、経営者は訴訟対策にも神経をとがらせている。その一方で業績不振を理由に当該部門を廃止するということに関しては個人的な差別に当たらないため、被雇用者の解雇は容易であるという。そのため、被雇用者はベテランの研究者、技術者であっても業務方針によっては次年度の解雇もありうると自身の雇用に対して常に緊張感をもっていた。したがって、研究者、技術者は企業が自分を解雇する可能性があるということを常に感じており、管理者への個人的な信用はあっても企業そのものへの信頼度、愛着は非常に低い者が多かった。また移民の場合、研究者、技術者であってもビザの継続が困難である場合、帰国を余儀なくされるため、たとえ受け入れてくれる企業とのパワーバランスは、ビザの問題が大きく影響している。当地の流動性には雇用制度、ビザ、就業観が影響していることが明らかになった。 これらのインタビュー調査の結果を踏まえて、年度の後半は、量的調査に向けてインタビューの内容を反映した調査票の設計を行った。調査票の設計にはスタンフォード大学リチャード・スコット教授、UCバークレー大学ロバート・コール教授、アナリー・サクセニアン教授、クレア・ブラウン教授に指導を受けた。2010年春の調査実施に向けて何回も内容について検討、推敲を行った。(平成22年度春、現在調査実施中)
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