本研究は社会的流動性とその背景にある社会的要因についての国際比較を目的としている。平成22年度はオンライン調査による質問紙調査を行なった。調査票の設計にはスタンフォード大学リチャード・スコット教授、UCバークレー大学ロバート・コール教授、アナリー・サクセニアン教授、クレア・ブラウン教授、サンフランシスコ市立大学バーナード・ウォン教授に指導を受けた。有償のオンライン・マーケティング調査が多い中、被調査者はオンライン調査に辟易としており、回答者を集めることが大変困難であり、予想以上に実施期間が長期化した。何度も現地に赴き、いくつかの専門職のコミュニティに調査協力を依頼し、少しずつサンプルを獲得していった。平成23年の1月にようやく130余りの回答者を得ることができ、計量分析に耐えうるサンプルを確保した。分析では人種の構成が非常に多様で流動している人々らしい転職の特徴をとらえることができ、非常に短期間で次の職場へと移行する人々の行動を確認した。性別では男性の方が女性より1~2年長く同一企業で勤務する傾向があり、男性が主たる家計維持者であることがうかがえた。世代別では年齢が上がるごとに転職回数が多くなる傾向があったが、20代でも2回以上転職している人が多く、3年程度で転職していた。また1回の就業を経るごとに次の職場ではやや勤続期間が長期化する人が多く、年を重ねるごとに自分に合った職場を見つけ、定着する傾向がうかがえた。シリコンバレーの人々は大変流動的な行動パターンであったが、就業観に関しては人種、性別、世代には有意な差は見られず、多様な人々の意識がシリコンバレー志向として共通している点が非常に興味深い結果であった。具体的には日本人の専門職では見られないほど企業への愛着をもっており、専門職特有の職業への強い誇り、コミットだけでなく、所属組織への愛着、努力を惜しまない姿勢があった。今後、日米比較データで論文の執筆、発表を行なう予定である。
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