平成20年度は、主として、境界決定の自律性という概念の精緻化ならびにワーク・ライフ・バランス(WLB)の経営学的な意義を明らかにすることに努めた。 これまでの日本の経営学、人的資源管理論は、組織の境界内に存在する労働力をいかに効率的に管理するかに着目されてきた。しかし、WLBは、組織外部に生活基盤を置く労働力の持ち主である人間が自分の生活と組織内での仕事とをいかに折り合いをつけていくかという問題であり、従来の発想だけではWLBに対処できない。1つには、「労働力としての労働者」のみならず「労働力の所有者としての労働者」へと労働者概念を拡大することが必要となる。さらには、組織の境界の越え方は労働者により異なっていて組織の一律の管理には馴染みにくいため、労働者の自律性にできる限り任せることが合理的であり、そのために境界決定の自律性という新しい概念を用いることが有効となる。 境界決定の自律性とこれまで経営学で言われてきた自律性との違いは、後者が境界内部で与えられた仕事を遂行するためだけのものだったのに対して、境界決定の自律性は組織の境界の越え方に関する裁量を指すところにある。一般に、境界の越え方は組織の専決事項と捉えられてきただけに、境界決定の自律性は、組織が本質的に持つ他律という原則にも影響を与える可能性がある。また、境界決定の自律性概念を用いることで、生活の中に如何に仕事を位置づけるかという視点から、労働の意義を新たに問い直せる可能性が見出された。
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