情報ネットワークの活用を通じて醸成される「相互信頼性」、あるいは情報技術活用を通じて社会的に構成される噺たな業務遂行の前提与件ないし文脈性」に注目することで、戦略の創発過程に対する新たな分析視角の提唱を試みることが、本研究の目的であった。最終年度に相当する本年は、まず企業間だけでなく顧客を含めた取引先との購買履歴データなどの活用に注目し、プライバシーと個人情報の相違を峻別した上で、社会的絆にもとづく個人情報の交換の重要性について考察を加えた。このとき、社会的絆とは、取引という実践を通じたオーバーアチーブメントに依拠する社会的関係性であり、等価交換とは異なる論理に基づく考え方である。言い換えれば、取引行為を通じた「取引以外の価値」ないし「コンテキスト形成」による取引である。このような「コンテキスト形成」を中心とする継起的取引は、取引主体間の「相互信頼性」の醸成に深く関わっている。そこで、相互信頼性の醸成を含めた、包括的なコンテキスト形成能力を評価するための「IT経営モデル」の構築を試みた。そこでは、取引以外の価値を含む組織的活動を広く「実践」として認識し、実践を通じた(コンテキストとその活用)能力形成という視点から、理論的モデルを提唱することに成功した。さらに、近年とみに注目を浴びている「実践としての戦略」という分析視角から、情報システム戦略を検討するための予備的考察として、アンソフの戦略的決定の議論を「過程学派」の嚆矢と位置づけ、近年の「実践」学派に通じる系譜について考察を加えた。
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