研究概要 |
本研究は、近年において企業グループ組織の再編が容易に行える条件が整った中で、出向・転籍という日本において従来から広く行われてきた雇用慣行がどのように変化しているのかを明らかにし、今後の企業グループ経営について、人的資源管理という観点からの知的水準の向上を目的としている。 3年目である本年度は、まず人事担当者へのインタビュー調査などによって得られた知見を加え、成果をまとめた論文および図書が公刊された。次に、昨年度に引き続き、人的資源管理論、組織論、管理論、労働経済学など、企業グループと出向・転籍に関連する文献研究を行った。さらに、それらに昨年度実施した日本の上場企業1,000社に対して質問票調査の集計と分析を行った。なお、今回のアンケート調査では回収率が低く、十分なサンプル数を得ることができなかったために、高度な統計的分析は十分に行うことができなかったが、以下のような貴重な示唆が得られた。まとめると、以下の通りである。 第1に、出向・転籍先としては、国内連結対象企業が増加している。第2に、出向から転籍への切り替えについてはコスト削減よりも相手先の意識や希望を考慮する傾向にある。第3に、出向の実施に伴う問題点としては、出向者の評価が難しいことが、出向者のモチベーションなどよりも重視されている。第4に、グループ経営の面では、ミッションを明確に設定し、経営成果を厳しく問うようになっており、経営上の意思決定に関しては本社が強く関与する傾向にある。第5に、出向・転籍に関しては、役員以外の従業員について、人件費削減の側面よりも、移動先を強化できた、本人の能力向上に役立ったという点を高く評価する傾向にある。
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