研究課題/領域番号 |
20530384
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
久保 英也 滋賀大学, 経済学部, 教授 (10362815)
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研究分担者 |
酒井 泰弘 滋賀大学, 経済学部, 特任教授 (40093760)
前田 祐治 関西学院大学, 経営戦略研究科, 准教授 (70456747)
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キーワード | 破産確率 / ART / 保険の買取制度 / 規範と文化 / ジャンプ過程 |
研究概要 |
平成22年度は、3人の研究者が最後のまとめに入る年度として取り組んだ。酒井泰弘は、リスク引受市場においてリスク移転に関する確固とした規範文化思想的な基準を打ち立てるべきとし、著書「リスクの経済思想」を発刊にこぎつけた。リスクの経済学の過去、現在、そして未来を鳥瞰し、とりわけ、ベルヌーイ、アダムスミス、パスカルからフォン・ノイマンまで取り上げた書籍は見当たらない。また前田祐治はキャプティブ保険会社をベースとした伝統的な保険会社の保険料の計算とは異なるリスク対価に関する論文2本完成させた。久保はこれら2人の研究をサポートすると共に既に、確率論的アプローチを用いた生命保険料を算出し、伝統的な保険料計算との比較する中で、生命保険料の保険料計算の見直しの提言を行っている。 今回の科学研究費の研究は、当初意図した資本市場と保険市場の双方のリスク引受対価(保険料)の計算ができたことにより、資本市場と保険市場と融合の条件が明確となった。すなわち、保険は1時点でリスク量とリスク対価が必ずしも1対1で対応していない状況においてもリスクを引受けるところにその本質がある。その意味で、保険会社は、1時点ではリスク対価とバランスしないリスクを自ら保有し、これらは大数の法則、時間分散、査定、そして、保険会社に長期に蓄積された内部留保(資本、諸準備金、含み益など)で担保する。ここに、保険の独自機能があり、社会貢献できる部分である。したがって、保険の独自性は、資本市場の存在如何にかかわらず永続するとする。逆に、リスクとリスク対価が1対1で対応する分野は、資本市場に任せた方がコスト的にも保険会社の健全性からも合理的である。たとえば、生命保険の買取制度は多数の契約からなる保険群団の中から、死亡率の高い1契約を取り出し、「死亡保険金を受け取れる可能性の高い契約」という価値を評価し、資本市場で取引するものである。その意味では、リスクとリスク対価はイコールとなっている。「1時点で1対1の対応をしているリスクは資本市場に、そうでないリスクは保険市場に移転」という選択を一般の経済主体がリスク移転時に円滑に行えることが重要である、と結論付けることができる。
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