消費者の製品評価に関する認知空間を求める分析モデルは従来から存在するが、消費者の製品選好は主観的な感性に依存すると考えられる。そして認知と選好という2つの空間を結びつける研究はマーケティングにおける重要なミッシング・リングであった。そのリンク関数を研究しようというのが本研究の目的である。 本年度はマーケティングの中から生まれた新しい分析モデルと、マーケティング以外の領域から生まれた分析モデルをとりあげて、具体的な消費者データをもとに研究を行った。前者はDesarboらが提唱したクラスター化双線形MDSである。消費者のクラスター、製品の位置、そして製品の属性というモードの異なる3種類の情報を、-つの多次元空間に表示するモデルである。原案では反復解法の収束性に問題があったため、特異値分解を用いたより効率的なアルゴリズムに修正しRプログラムに実装した。 後者は地球統計学のアプローチである。Hainingによれば、従来地球統計学は資源評価や環境問題に適用されてきている。近年は不動産価格の地理的分布のような経済学的な研究にも用いられ始めたが、まだマーケティング分野での適用例はない。本年度では、日本の旅行者の海外の旅行先の認知空間を表現し、クリギングを用いて旅行地のリ・ポジショニングの影響度を予測する研究に着手した。イメージが近い国であっても、観光客の数は大きく異なることから、感性的な選好分布が多峰的であることが想定される。 海外旅行に限らず、それ以外の消費者の意識と行動に関する実証研究も今後必要であろう。本研究はマーケティング・サイエンスの方法論の研究であるから、分析する製品分野を特定のものに限定する必要はない。今後研究対象とするべき製品カテゴリーについて検討を要する。
|