本年度は研究最終年であったことから、これまでの研究で手薄であった部分の禰足調査と、進出の全容を知るためのデータベースの精緻化に主眼をおいた。具体的には、1970年代に日本の百貨店が進出した欧州市場の調査と、近年注目が集まっている中国市場の内陸部および華南地域での調査を行い、それらを踏まえてデータベースの精緻化を行い、正確な全容の把握を行った。 まず欧州であるが、この市場には日本人ツーリストが土産物を購入するための店舗(免税店)が百貨店によって展開されてきた。しかし、1990年代から撤退が相次ぎ、現在では2店舗が残るのみの「過去の市場」とされている。しかし現状を調査すると、それらの店舗では日本人観光客と入れ替わるように中国・台湾・韓国からの団体観光客が急増しており、新しい小売グローバル化時代の姿を見ることができた。この分析の成果は、川端(2011)「日系百貨店による海外ツーリスト市場戦略の再評価」『商学論究』58-4、にまとめている。また、中国内陸部や華南では、総合スーパーの平和堂とイオンを例に、中国市場固有のマネジメント手法を分析したが、そこから今後の中国市場での市場開拓のカギを見出すことができた。これも含めた日系小売業の中国進出の歴史的分析(総括的分析)は、川端(2011)「日系小売業による中国市場進出の歴史と今後の課題」『季刊イズミヤ総研』86号にまとめた。 なお、以上のような点を含めた日系小売業の海外進出の「通史」については、平成23年度に単著として刊行する予定である。
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