約500名の被調査者に6本の食品CMを視聴させてその反応を調べる実験を行ったデータを用いて、情報的価値が高いケースと低いケースの間に見られる「視聴印象」評価の相違を多母集団の同時分析によって検討した。なお、本研究では、接触したCMの「伝達内容」に含まれる「商品選択基準」を、受け手が重視しているか否かによって異なるCMの情報としての価値のことを、「情報的価値」と定義した。そして、CMの「伝達内容」に含まれている「商品選択基準」を重視している受け手が視聴する場合を「情報的価値」が高いケース、それ以外の場合を「情報的価値」が低いケースと規定した。 多母集団の同時分析の結果、6ケースのうち5ケースでは2群(「情報的価値」が高いケースと低いケース)ともにモデルの妥当性が認められたために、2群で「視聴印象」の因子平均を比較した。その結果、5ケース中4ケースでは、情報的価値の高いケースは低いケースと比べて何らかの「視聴印象」特性の評価が高かった。つまり「情報的価値が高い→視聴印象の評価が高くなる」という反応プロセスが想定された。他方、1ケースでは、2群(情報的価値が高いケースと低いケース)でいずれの「視聴印象」特性の評価にも有意差がなかった。ただし、モデルが当てはまらないケース、視聴印象特性の評価に有意差がなかったケースでも、「Aad」の評価は情報的価値が高いケースが低いケースと比べて有意に高かった。 以上のことから、情報的価値と「Aad」との間には、(1)CMの伝達内容が視聴者の「食品選択基準」に一致していると、「視聴印象」評価が高くなり、その結果「Aad」の評価も高くなるというルート(情報的価値→視聴印象→Aad)の他に、(2)「視聴印象」を介さないルート(情報的価値→Aad)があることが推察された。
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