研究概要 |
平成23年度は、4月にRomeにて開催されたEuropean Accounting Association Annual Congressにおいて、これまでの研究成果を報告する機会を得た。そして、そこで得られた海外の研究者からのコメントを踏まえて、論文改訂を進め、研究の一部を英文ジャーナルへ投稿する作業を完了した。 これまでの調査では、1982年から2007年における世界10ヵ国の利益率格差について分析した。加えて、国ごとの会計基準に影響される度合いの低い営業キャッシュフローに関して、クロスセクションの格差を計測した。利益率格差・営業キャッシュフロー格差の水準と時系列の変動は国ごとに異なっており、その特徴は次の点にまとめられる。(1)近年、多くの国において格差が拡大している。(2)格差拡大が始まるのは1997年前後である。(3)格差が顕著に拡大している国は、アングロサクソン諸国である。直近の水準でいえば、Canada,Australia,UK,USAの格差が相対的に大きいことが、明らかになった。こうした発見は、資本市場の機能、上場基準が国ごとに異なることを示唆している。つづいて、利益格差の決定要因に関する仮説を設定し、統合データを用いた回帰分析を行った。その結果、会計的要因と非会計的要因の双方が、利益率格差を規定している点が明らかになった。会計的要因とは保守主義の程度、利益平準化の程度である。一方、非会計的要因には、リスクマネー供給の多寡、資本市場のダイナミクス、小規模企業、景気循環が含まれる。さらに、会計的要因と同時に、非会計的要因も利益率格差の創出要因として有力であることを示唆する検証結果も得られた。こうした検証結果は、格差の測定方法や会計的要因の定義、モデルの特定化などに対して頑健であった。
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