研究概要 |
1982年から2008年における世界10ヵ国の利益率格差について分析した。加えて、国ごとの会計基準に影響される度合いの低い営業キャッシュフローに関して、クロスセクションの格差を計測した。利益率格差・営業キャッシュフロー格差の水準と時系列の変動は国ごとに異なっており、その特徴は次の点にまとめられる。(1)近年、多くの国において格差が拡大している。(2)格差拡大が始まるのは1997年前後である。(3)格差が顕著に拡大している国は、アングロサクソン諸国である。直近の水準でいえば、Canada, Australia, UK, USAの格差が相対的に大きいことが、明らかになった。こうした発見は、資本市場の機能、上場基準が国ごとに異なることを示唆している。つづいて、利益格差の決定要因に関する仮説を設定し、統合データを用いた回帰分析を行った。その結果、会計的要因と非会計的要因の双方が、利益率格差を規定している点が明らかになった。会計的要因とは保守主義の程度、利益平準化の程度である。一方、非会計的要因には、リスクマネー供給の多寡、資本市場のダイナミクス、小規模企業、景気循環が含まれる。さらに、会計的要因と同時に、非会計的要因も利益率格差の創出要因として有力であることを示唆する検証結果も得られた。こうした検証結果は、格差の測定方法や会計的要因の定義、モデルの特定化などに対して頑健であった。 本研究の成果は、アメリカ会計学会、ヨーロッパ会計学会で研究報告を実施した。そこでのコメントを踏まえて、国際的な査読付きジャーナルに投稿し、現在は第2ラウンドでの改訂を行っている。また、付随的な研究については、既に査読付英文ジャーナルに三本が掲載された。
|