公正価値論争を整理するために、概念の明確化を行った。公正価値概念は、将来キャッシュフロー(過去キャッシュフローではなく)の現在価値(推定値)であるという共通性を有しているが、価格が成立する(1)市場の種類(販売市場または購買市場)と(2)状態(取引コスト、裁定機能、および流動性における相違)、および、(3)将来キャッシュフローを推定する主体が市場参加者(または取引参加者)か経営者かに関して、複数の解釈がありうることを指摘した。 また、完全な公正価値会計(オフバランスの経済価値の公正価値によるオンバランスを行い、純資産簿価で当該企業の経済価値を表すモデル)への道筋として、論理的には、金融資産の公正価値評価→金融負債の公正価値評価→非金融資産の公正価値評価→非金融負債の公正価値評価という展開が考えられる。この展開において、「→金融負債の公正価値評価」に伴うダウングレーディング・パラドクスの問題(とその解決)が鍵となると考え、当該問題を(1)経済学的な解釈vs.法学的解釈および(2)経済学的解釈vs.会計学的解釈という2つの視点から分析を行った(その結果は、09年3月14日、神戸大学において報告[兼松セミナー/現代会計学研究会共催、論題「公正価値会計と負債のダウングレーディング・パラドクス」])。当該問題に関する申請者の新しい発見は、負債のダウングレーディング・パラドクスには、企業と市場の状態によって、会計上で「真のパラドクス」となる場合と「見かけ上のパラドクス」(純額で評価益は発生しない)となる場合があることを明らかにしたことである。
|