研究概要 |
本研究の目的は,2004年に開始された国際会計基準審議会(IASB)と財務会計基準審議会(FASB)の概念フレームワーク共同プロジェクトを主たる検討素材としながら,会計基準のコンバージェンスの今日的特徴と展開方向を明らかにすることにある。本年度は,財務報告情報の質的特徴の1つとしてFASBの2006年予備的見解(FAS, No.1260-001)で提示された「忠実な表現」の概念構成と,基準設定に対する当該概念の理論的インプリケーションを,当該概念の形成(再定義)の歴史的経路をふまえつつ検討した。「忠実な表現」概念に主導された基準設定のもとでは,GAAPの変質(記述的性質の後退)が促進される傾向を持つ。そうした制度形成に正統性を付与するために,基準設定団体の後見であるパブリックセクター(SEC, IOSCO, EFRAG等)の主導性や影響力が相対的に強化されることになる。ところが,コメントレター等において表明された実務界の見解には,GAAPの本来的性質である「一般的承認性」(ボトムアップ型の制度形成)と,複式簿記(会計記録)に依拠した利害調整機能が重視される傾向が依然として観察される。総じて,会計制度変化は,複式簿記を基盤とする会計的計算構造と,実務において共有された暗黙知としての会計慣行をアンカーとする点に,歴史貫通的な特徴を持つといえる。本年度は,非営利組織における会計制度変化にも言及しつつ,以上の検討作業を行った。
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