この研究は、平成20年から平成22年までの3年間にわたって、会社法や金融商品取引法などの新しい法律制度に基づく企業の財務報告やガバナンス・システムに焦点を当て、その社会的・経済的影響を「マーケット・マイクロストラクチャー」と呼ばれるファイナンスの先端的な分析手法を用いて実証的に解明することを課題としている。 マーケット・マイクロストラクチャーの研究は、ティック・データなどの高頻度データの利用に伴って、最近めざましい発展を遂げている研究分野であり、そのため、これまでにどの様な実証研究や理論研究が行われてきたのかを詳細にフォロー・アップするように努めた。こうした文献レビューの成果は、2編の雑誌論文および1冊の単独図書に収録されており、マーケット・マイクロストラクチャーの分析手法とその研究内容について関心をもつ研究者や証券市場参加者などに大いに参照されることが期待される。 また、証券市場の公平性・透明性を高め、投資家を保護するために、証券取引法のもとで1990年に導入され、金融商品取引法のもとで大幅な見直しが実施された『大量保有報告制度』について、これまでに実際に提出された「大量保有報告書」、「変更報告書」および「訂正報告書」のデータベースを作成している。現在のところ、未完成の部分が残されているが、2001年7月から2008年12月までの90ヶ月間に提出された延べ20万件以上の報告書について、提出日・発行企業名・提出者名・保有者名・保有株数・保有割合などの項目を収録している。このデータベースの概要と投資家行動研究における利用可能性について検討した論文が、雑誌(『国民経済雑誌』2009年5月号)に掲載予定である。今後は、このデータベースをさらに充実させるとともに、このデータベースを活用して、創業者などの個人や投資信託などの機関投資家の株式売買行動に関する実証分析を継続して進める予定である。
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