研究概要 |
本研究「内部統制監査における保証水準の確保に関する理論的及び実証的研究」は,内部統制監査において監査人が「監査」としての保証水準を担保するために必要な理論的・実務的な基盤を得ることを目的とする。平成20年度は,内部統制監査に関する内外の文献のレビューを中心とした理論的研究を行った。平成20年度の研究成果の中心は,世界で唯一日本に先行して内部統制監査が制度化されているアメリカの内部統制監査制度に関するものであり,具体的な成果物として,下記の雑誌『産業経理』第68巻に掲載された「ダイレクト・レポーティングとしての内部統制監査」を挙げることができる。当論文は,アメリカの内部統制監査を規制する監査基準がその改訂に際して内部統制監査報告書において表明すべき監査意見の対象を会社の「財務報告に係る内部統制の有効性」に限定したことに関して,そのような政策転換を図った監査基準設定機関であるPCAOBの論理とその妥当性を検討するとともに,そのPCAOBの論理が我が国の内部統制監査に与える示唆について考察したものである。PCAOBの論理が我が国の内部統制監査に与える示唆のうちで最も重要なことは,我が国のように会社の「財務報告に係る内部統制の有効性に関する経営者の評価」 に関する意見表明のみが監査人に求められる場合であっても,監査入には,そのような意見表明の基礎として,財務報告に係る有効な内部統制がすべての重要な点において維持されているかどうかについて合理的な保証を得ることが求められているという点である。つまり,経営者評価に対して(監査としての)高水準の保証を付与するためには,内部統制の有効性そのものについて合理的な保証を監査人は得なければならないのである。
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