本研究は、「公正価値」、「コンバージェンス」および「日本の会計」の相互関連性(浸透・収斂過程)や諸問題を明らかにすることを目的とする。本年度の研究成果はおおよそ次の通りであった。 (1) 公正価値(とくに見積数値が用いられるケース)および現在価値の適用状況を長期的にみると、適用レートは「内」(実効利子率)から「外」(市場利子率)へと変化し、利益は「フロー志向」(原価主義的利益)から「ストック志向」(公正価値的利益、経済的利益)へと変化してきたことが観察される。この問題はインサイダー・コントロール・システムとアウトサイダー・コントロール・システムという広い枠組みで捉えることによって、より明確にされる。 (2) リース会計基準(およびその国際的動向)についてみると、オンバランスの範囲がオペレーティング・リース取引にまで拡大されようとしていること、「利息法」から「公正価値法」に向けた提案がみられるようになってきたことが観察される。その際の主たる根拠として、「資産負債中心観」(ストック志向)、「構成要素アプローチ」(金融資産と非金融資産の区分)および「使用権モデル」(権利・義務志向)があげられている。 (3) FASBやIASBが標榜する原則主義(目的志向性)、測定属性の特定化および市場の論理は、例外の排除、特定の測定基準の選択および市場価格への集約を目指すものであり、「収束の論理」に基づいている。それゆえ、コンバージェンスを表面的に観察すると、アウトサイダー・コントロール・システムへの収束が目指されているようにみえる。しかし、現行の会計実務では、企業特殊的要素と市場関連的要素が混在しており、原価主義会計のなかで公正価値(現在価値)評価が部分的に適用されているのにすぎない。したがって、FASBやIASBの理念と実際の会計実務の間には乖離がみられ、コンバージェンスに向けてさらなる議論が必要とされる。
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