研究概要 |
国立公文書館所蔵の「閉鎖機関資料」を利用して、日本の東アジア植民地統治とその会計実態という、従来の日本会計史研究における巨大な空白部分を埋めることが本研究の全体構想であり、戦前・戦時日本の「国策会社」の会計実務実態、とりわけ予算統制および原価態様分析等の利益管理ツールの導入過程を分析することが本研究の具体的目的である。 この目的のため、本年度は東アジア植民地経営とその会計的影響という視点から、国立公文書館所蔵の閉鎖機関資料のうち、同植民地経営に深く関与した国策会社2社(南洋拓殖および北支那振興)を重点的に選別し、各社の予算統制および原価態様分析等の利益管理ツール、ならびに各種報告制度とそれを通じた統制制度に関する情報を抽出し、データベースを作成した。 同データベースに基づき、上記国策会社2社の、とくに財務報告の実態を分析したところ、所管省庁である拓務省に対して1935年前後から終戦直前の1944年までに提出された決算報告書中に、通常の決算書に加えて、「時価評価による貸借対照表」や「資産負債評価損益調」などが添付されている事例が発見された。この結果は、国策会社という特殊ケースに相当するとはいえ、株券・債券などの金融品と同様に、所地所である定資産もめて、あらゆる資産に関する時情報を開示する実務が戦前の日本企業である程度体系的に実践されていたことを示唆する重要な証拠として注目される。 以上の分析精果を取りまとめ、日本会計史学会(平成20年10月25日於東北大学)にて報告を行ったほか、これを「日本会計史学会スタティグループ報告書(最終報告)」として公表した。 また、本研究の関連で付随的に分析した大日本航空株式会社の予算統制の実態を、M. Noguchi, 'Tight ening Budgetary Control in a Wartime Economy and Its Organizational Impact: The Case of Japan Airways'として取りまとめ、2009年3月25-26日にフランス・パリで開催された14th Congress of Management and Accounting Historyにて発表した。
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