研究概要 |
国立公文書館所蔵の「閉鎖機関資料」を利用して、日本の東アジア植民地統治とその会計実態という、従来の日本会計史研究における巨大な空白部分を埋めることが本研究の全体構想であり、戦前・戦時日本の「国策会社」の会計実務実態、とりわけ予算統制および原価態様分析等の利益管理ツールの導入過程を分析することが本研究の具体的目的である。この目的のため、本年度は、東アジア植民地経営とその会計的影響という視点から、国立公文書館所蔵の閉鎖機関資料のうち、同植民地経営に深く関与した国策会社2社(当初除外していた金融機関、具体的には満州興業銀行および朝鮮殖産銀行)を、さらに昨年度資料数が膨大にのぼるため完全には実施できなかった2社(東洋拓殖と南満州鉄道)も含めて選別し、各社の予算統制および原価態様分析等の利益管理ツール、ならびに各種報告制度とそれを通じた統制制度に関する情報を抽出し、データベースを作成した。これに基づき、各社の予算統制の実態を分析したところ、南満州鉄道の場合、1940年の社線および国線の会計統合以後、とくに軍需品輸送にともなう業績低下の背景もあって、予算統制実務がタイトに運用されていた事実が明らかにされた。この予算統制の厳格化には、当時中国東北部に駐留していた関東軍による経営介入が影響していたことが考察された。以上の分析結果を取りまとめ、ディスカッションペーパーを作成した。これをもとに来年度前半に専門雑誌に投稿する予定である。また、本研究に基づき従来から改訂を重ねてきた大日本航空の事例についての研究がAccounting, Auditing and Accountability Journalおいてアクセプトされ、来年度に掲載される予定である。また、同じ大日本航空の事例により進めていた研究成果がMcWatter, C.S. and Zimnovitch, H.(eds.) Histoire des Entreprises du Transport : Evolutions comptables et manageriales, Paris, L' Harmattan, pp.49-86.に掲載された。
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