研究概要 |
本年度は、価値創造プロセスにおいて、持続的な競争優位をもたらすために有用となる資源を認識・分類するとともに、異なる経営資源が企業業績に及ぼす影響について日本企業の財務データを用いて実証分析を行った。一般的に、企業の買収および合併(M&A)は成長戦略の手段の1つとして用いられているが、異なる経営資源が企業業績に及ぼす影響についてはこれまで明らかにされてこなかった。本研究では、競争戦略論に基づいて戦略タイプを成長戦略とコスト削減戦略の2つを識別し、経営資源については、回復可能性の容易さから、(1)組織の技術的なデザインにいまだ吸収されていない資源、(2)超過コストとしてシステム内にすでに吸収されているが回復可能である資源、(3)組織を取り巻く環境から超過資源を生み出す能力の3つに分類を行い、実証分析を試みた。具体的には1980年から2009年の間にわが国の全国証券取引所のいずれかに上場する企業のうち金融・保険業を除いた企業をサンプル(14,827企業・年)として分析を行った。分析の結果から、成長戦略を採用している企業のほうが業績指標であるROAが大きいということが示されるとともに3種類の組織スラックが企業業績に異なる影響を及ぼしていることが明らかになった。具体的には、成長戦略企業において回復可能性スラックと潜在的スラックがROAにプラスに寄与していることが判明した。このことは成長戦略には、企業が長期的に利用可能な資源を用いていることを示している。 一方、コスト削減戦略を採用している企業では、3種類の組織スラックが企業業績を示すROAと正の関係にないことが明らかになった。とりわけ潜在的スラックについては、それ自体はROAと正の有意な関係にあるものの、コスト削減戦略を採用している企業については企業業績の向上に寄与しないという結果が示されることになった。 さらに、本研究では経営資源のうちM&Aに影響を及ぼすと認識されているマーケティング資源について、他社のマーケティング資源を利用するための株式保有行動や企業業績への影響についても実証分析を行い、マーケティング資源、株式保有割合および企業業績が相互に関連していることを明らかにした。
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