近年、米国を中心として税務関連情報に対する関心が高まってきている。その代表的なものは課税所得であるが、日本では米国等と異なり、申告書に記載された課税所得の金額が公示されていた(申告所得公示制度)。しかしこの情報が目的外で利用されている等の指摘を受け、この公示制度は2006年に廃止され、課税所得の実績値を外部から知ることはできなくなった。本研究は、申告所得情報公示制度が果たしてきた役割を検討した上で、この制度の廃止が及ぼした影響について明らかにするものである。 申告所得情報公示制度の役割評価という論点については、特に実績値としての課税所得が利用可能であったという点に着目し、課税所得関連情報と利益調整行動との関係、課税所得の情報内容といった点を検討する。 また制度廃止が与えた影響という論点については、実績値としての課税所得が利用できなくなったことの影響を中心に取り扱う。ここでは財務データを利用した課税所得推定方法の評価、公示制度廃止の前後の経営者による税負担削減行動や利益調整行動の変化等の検討がなされる。
|