本研究の目的は、財務情報との関連において開示されている事業リスク(business risk)の開示方法とその保証について、現状の課題を抽出・分析し、それに基づいて、情報開示とその保証をセットに考えた基礎理論モデルを構築し、当該モデルのプロトタイプの開発と検定を行うことにある。 今年度は、これらの開示の実態をサーベイし、その類型化を試みるとともに、開示情報がもつメッセージ性について検討してみた。 事業リスク情報の開示内容は、大別して、「XXXというリスクがある」というように危険予知情報としての性質をもつ「リスク識別情報」と、「XXXという対応を行っている」というような「リスク対応情報」とがある。 開示内容を検討した結果、次のような課題が明らかとなった。第1に、リスク識別情報については、その論拠や重要性判断に関する情報が提供されているとはいいがたく、開示されているリスク間の関係(すなわちリスク連鎖に関する情報)も不明確となっており、情報の受け手にとって有用な意思決定情報と言い得るかどうか甚だ疑わしい。第2に、リスク対応情報といっても、リスク識別情報と関連づけられたメッセージとなっていないケースが多く、中にはすでに対応しているのか、これから対応しようとしているのかさえ明確でないものもある。またそのメッセージ性として、単に一定の対応情報を伝達しているのか、情報の受け手に安心感を与えようとしているのかも甚だ不明確である。 このような点を踏まえると、アカウンタビリティを果たすための情報開示モデルと、その保証メカニズムの構築が急務である。
|