1 本研究は、事業リスク情報を開示することの意味、及びその情報の信頼性に保証を付与することの意味にまで遡って、現行の情報開示実態(法定開示及び任意開示)の限界や問題点を明らかにした上で、最新のIT環境を前提としたリスク情報開示とその保証のための基礎理論モデルの構築を試みるものである。 2 リスク情報の開示は、以下の要件を満たした開示モデルとして構想される必要がある。第1は、情報の開示者がどのようなリスクを認識しているか(どのようなリスクを特定・識別しているかという事実)が明確になっていることである。第2は、情報の利用者にとって意味ある注意喚起がなされるものでなければならないことである。第3は、情報提供者が特定されたリスクに対してどのように対応しているかを情報利用者に示していることである。第4は、あるリスクが別のリスクへと連鎖する可能性があればそれもあわせて開示することである。第5は、リスクの変化が適時に開示されなければならないことである。これらの要件に照らしたとき、現行のリスク情報開示は、きわめて不十分なものであることから、意味ある情報開示となるよう、「リスク情報開示モデル」を再構築する必要がある。 3 最近、法定開示、任意開示を問わず、その情報提供量の爆発的増加がみられる記述情報の中でも、リスク情報は、ステークホルダーにとって、もっとも重要な情報である。その意味で、リスク情報の信頼性に対する第三者保証は必要なものであるが、リスク情報はその本質において将来の未確定情報であることから、情報の信頼性よりもむしろ上記の開示要件を満たしているかどうかという観点からする保証が求められる。その際、クラデーション保証などの新たな「保証モデル」の適用が効果的である。
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