本年度は財務綴告と資本コストの関連性にういて理論的な検討を行った。EUでは、一定の上場企業は、財務報告に際し、2005年以降、IFRS(International Financial Reporting Standards:国際財務報告基準)を強制適用することになった。IFRSの早期適用が資本コストに及ぼす影響は、EUの加盟国や企業によって様々である。この理由の一つは、情報の最適な開示水準が、一般に、取引コスト低下の便益(例えば資本コスト低下の効果)と情報生産コストのトレード・オフによって内的に決定しうるからである。日本企業についても、IFRSの早期適用が情報非対称性の程度を減じるのであれば、市場はその企業を相対的に高く評価すると予想される。当面の課題は、市場が個別企業のIFRS早期適用をどのように評価し、市場の構造がどのような影響をうけるかという点である。実務的には、早期適用のタイミングが問題となろう。EUでの実証結果によれば、IFRSの強制適用が市場に及ぼす影響は法的な環境やガバナンスが関連している。日本や米国のようにルールベースの情報開示の進んだ国では、国内の財務報告基準からIFRSにスイッチするコストは大きいと予想される。日本基準のIFRSへのコンバージェンス(convergence)の程度、あるいは、IFRSのアドプション(adoption)に関する政策的な決定については、情報開示のコスト・ベネフィットの観点から社会的合意が必要である。
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