研究概要 |
この研究は,保険契約の会計をモチーフにしながら前世紀末から急速に影響力を持ち始めた公正価値会計(時価会計)に内在する特性を明らかにし,それがわが国の経済・産業界に与える影響(経済的帰結)を分析すること,そしてその分析に基づいて一定の政策的インプリケーションを得ることを目的としている。 この目的を達成するために,平成20年度は保険会計ないし公正価値会計の構造を明らかにすべく国際会計基準委員会やFASB等が公表した討議資料,論点整理,原則書等の計算構造を分析し,また公正価値情報が投資家の意思決定に与える影響について実験を行った。 このような研究活動の最中に勃発したのが,世界同時株安と金融危機の渦中で実施された「時価会計の凍結」である。この緊急政策の実施と各国おける会計基準の見直しの動きは,時価会計が引き起こす社会的弊害に対する危惧の表明であり,この間,世界の資本市場は当該会計システムの社会的機能を解明するための実験場の様相を呈していた。そこで我々は当初予定していた公正価値会計の実務に関するアンケート調査(これは時価会計が今日のように注目を浴びる前の時点で,一般社会の関心の程度とその内容を把握するために計画していた)に代えて,各国の基準設定機関の動向を注視しつつ,公正価値会計に関する議論の行方を見定めてきた。現在,その議論もかなり落ち着きを見せてきため,今年度は関係機関に対するインタビュー等を行いながら各種の見解を整理し,これまでの理論的研究をふまえて,我々の公正価値会計に対する評価と立場を明確にしたいと考えている。
|