平成23年度の研究においては、これまでの研究の総決算として、主として国際比較調査データを用いながら、青年期における<悪>の観念の分化プロセスについての知見をまとめた。 これらの研究成果は、本研究の4つの柱A~Dに対応して、次のような形で整理できる。 A4理論モデル:道徳意識は、モジュール的かつ複合的に構成されている。青年期における道徳意識の弛緩は、性や自己決定に関する領域から開始される。性が道徳意識の柔軟性や高次化を高めるトリガーとみなすモデルは、性と道徳の対抗関係を仮定する従来の社会化モデルを大きく塗り替えるものである。 B4縦断的調査研究:性や自己決定をめぐる道徳意識の加齢変化(弛緩-再安定化)は、殺人率にみられる加齢変化などと同様に、ユニバーサル曲線を描く。これらの変化は、テストステロンの加齢変化と共通している。こうした加齢変化に関する知見は、神経科学や社会学、犯罪学などを架橋する学際的な統合的因果モデルの必要性を強く示唆するものである。また道徳意識の厳格化という教育施策が、かえって意欲や挑戦の低下を引き起こしてしまうことも意味する。必要なのは、ポジティブな社会的活動への水路付けであるということになる。 C4国際比較調査研究:データアーカイブを用いて国際比較を行ったところ、社会秩序への反抗の許容などに関しては、共通の加齢変化がみられた。他方、年功序列に関しては東西の文化差が顕著であった。これらのことから、青年期だけを問題にするのではなく、青年期と老年期のカップリングのあり方にこそ、焦点を当てる必要があることが分かった。 D4道徳教育や社会教育への応用:上記の研究成果にもとついて、青年期における道徳意識の揺らぎを、抑制するのではなく、よりポジティブな社会的活動へと結びつけていくための提言を、内閣府や福岡県の行政事業において行った。
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