本年度は、理論研究を推進するための準備と研究環境の整備を行った。主な活動は、研究者のネットワーク作りと、最新の社会システム論・一般システム論の研究動向のサーベイである。 研究者のネットワーク作りについては、社会・経済システム学会のメンバーや大学院等の若手研究者を中心に、本年度の初めから数回にわたる国内の研究会を実施し、国内のネットワーク作りを行った。ドイツの研究者グループとのネットワーク作りは、出張のスケジュールが折り合わず、電子メール等でのやりとりに終わった。 研究動向のサーベイについては、ニクラス・ルーマンをはじめとするドイツの社会システム論とエージェント・ベース・モデルを中心とする一般システム論の動向をサーベイした。 ルーマンの社会システム論は、行為主体を捨象したマクロモデルであるが、これに行為主体を組み込んだ理論構築の試みが行われている。だが現時点では、行為主体のモデルが合理的選択理論をベースとしたものに限られ、社会学の行為論で探求されてきたような意味解釈能力を持つ行為主体と言えるものにはなっていない。この点の改善が今後の課題である。 一般システム論におけるエージェント・ベース・モデルは、行為主体を組み込んだ社会システムのモデル構築とその挙動に関するシミュレーションを目的としたもので、社会システムの理論的分析にとどまらず、条件を統制してコンピュータ・シミュレーションを行える点に特徴がある。しかし、エージェントの性格づけや社会システムのモデル構築の際に、社会学的な知見との関連づけがほとんどなされていない。 したがって、社会学の社会システム論とエージェント・ベース・モデルをいかに連携させていくかが、今後の理論的課題となる。
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