本年度は、理論研究の推進を主目的とし、研究者のネットワーク拡大と最新の社会システム論・一般システム論の研究動向のサーベイを行った。 研究者のネットワーク拡大については、社会・経済システム学会のメンバーや大学院等の若手研究者を中心に、本年度のはじめから数回にわたる国内の研究会を実施し、国内のネットワーク拡充を行った。ドイツの研究者グループとのネットワークについては、ミュンヘン大学アルミン・ナセヒ教授を訪問して、若手研究者の研究フォーラムに参加し、今後のネットワーク拡大の一歩となった。研究動向のサーベイについては、ドイツの社会学者ニクラス・ルーマンの著書2冊(『社会の科学』1、2および『社会理論入門』)の翻訳・出版を行い、とくに社会システム論のサーベイと検証を中心に研究を進めた。 研究の過程で、とくにルーマンの『社会の科学』で扱われている個人の意識システムと社会システムの境界設定問題を明確に理論化していく必要性が確認された。これは、前年度(平成20年度)における研究結果として、エージェント・ベース・モデルにおける行為主体の性格づけが、しばしば合理的選択理論をベースにしたものに限られてきたという知見にもとづき、代替的あるいは補完的な行為主体モデルを構築する方向性を確認できた点で意義がある。 この確認にもとづき、マクロ社会とはレベルの異なる組織や社会ネットワークに焦点を当てて、理論の具体的な展開をはかっていくことが、今後の理論的課題となる。
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