今年度は「ヴァーチャルな世界」と「リアルな世界」を見る眼差しの中で、本研究の基準点となる「リアルな世界」そのものを直接見る行為の特徴を捉えることに研究の重点を置いて「視覚の社会的構成」の問題を取り扱った。この場合、リアルな世界を漫然と眺める視覚を考察しても、これが社会的にいかに構成されるのかの特徴を十分に捉えることはできない。したがって、リアルな世界を見る行為の明確な特徴を把握するためには、見ることを目的とし、意図的にこのリアルな世界や対象を視覚的に捉え、その時その場の社会的状況に応じて特別な意味をこれに与える視覚行為を選定しなければならない。本年度は、このような特定の対象や世界を見学・観覧する視覚行為として旅行を取り上げ、実際にこれらの旅行に加わりその参与観察を行い、この実際に対象を見るという文脈のなかで、ある対象、つまり自己とは異なる「他性」がどのように見られるのか、を捉えデータを収集した。また、旅行の視点を構成すると考えられるさまざまな旅行ガイドブック、紀行文、ポスターなどの資料の収集も行った。これらデータと資料をジャン・ポール・サルトル、ジャン=リュック・ナンシーなどの視点に準拠してし、見られる他性とは何かを追究すると同時に、対象を眼差す視覚行為と対象指示や対象確認、とりわけその場のリアルな社会的状況に従い、いかにそれぞれの見る行為がそれ固有の見る行為にと組み立てられ、結晶化されていくのかの検討を通じ、旅行と「イメージ」との関係、旅行において問題とされる「オーセンティシティ」や「アウラ」と「ピクチャレスク」の関係の分析を試み、見ることはどのように構成されるのかの一端を明らかにした。これらの成果を下記の二点の論文「此性の体験-視覚と表象-」および「夢見る瞳と旅する眼-旅行のイメージー」にとしてまとめ公表した。
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