「リアルな世界」を見る視覚行為の参与観察と「ヴァーチャルな世界」の調査を続けながら、見ることが社会的にどのように構成されてゆくのかを検討を続けてきたが、これに加え、視覚による自己および社会の構成の問題も取り上げ、リアルな世界を見る眼差しと「自己の構成」との関係を「真正性」の概念と関連させ、これを軸に考察を進めた。ヴァーチャルではなくリアルな世界を見るとは、真正で本物の世界を眼差すことに他ならず、この眼差しを捉えることにより、ヴァーチャルな世界を見ることとの差異を明確にする足掛かりを得た。さらに、この真正性の問題を「他者」もしくは「他性」との関連から検討を加え、観光ツアーに加わることで、「リアルな世界」で「他性」を見ることに関する参与観察を通じ、視覚による真正な「自己の構成」の問題は、実際の「リアルな世界」において「他性」を見ることと関連するという観点からアプローチを行った。以上の点を、ガヤトリ・スピヴァクとホミ・バーバーのネオコロニアリズムやポストコロニアリズムの考え、および、ルクレチウスとミッシェル・セールの「クリナメン」、およびジャン=リュック・ナンシーやジャック・デリダの「間隔」の概念、ジャック・ラカンの示す「対象a」の問題、ジャンポール・サルトルの眼差しについての検討、あるいはヴァルター・ベンヤミンの「アウラ」の観念やジル・ドゥルーズの「顔貌性」に関する内容を再考することで、リアルな世界での他性を眼差す視覚の分析から、対象に関する「雰囲気」と主体の側に生じる「状態性」の関係にと考察を展開し、視知覚する者に何が起きて何を被るのかといった、雰囲気と状態性との間の不可分な関係とそのあり方の考察を行い、新現象学の観点から「身体性」をも考慮に入れた身体視覚感覚の問題にも触れ、他性に対する視覚の分析と考察の展開を図った。これらの内容を下記の二本の論文に研究成果としてまとめた。
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