「見る」行為は社会的にどのように構成されるのかの「視覚の社会的構成」と、「見る」行為が人や社会をどのように構成するのかの「社会の視覚的構成」という相互に補完し合う二つの分析視点に立ち研究計画を進めている。「リアルな世界」を見る視覚行為の参与観察と「ヴァーチャルな世界」の調査を行い、見ることが社会的にどのように作り出されてゆくのか、また見ることにより自己や社会がどのように作られてゆくのかの問題を取り上げる。今年度は、視覚のあり方と「自己の構成」との関係を「身振り」を見ることと関係づけ考察を行った。見られる身振りは「演劇」の世界において顕著な意味をなし、演劇での身振りを通じ日常生活での見られる身振りの意義を捉えることにした。この考察は見ることに特化した観光の調査をも兼ねている。演劇における身振りの視覚的な内容を把握するために、バリ島の舞踊「レゴン・クラトン」およびムーラン・ルージュでの「フレンチ・カンカン」の調査を実施した。この考察を通じて、まず、視覚とは「いまここ」という時空を超越する機能やこれを「代補」する役割を果たしていることを指摘した。次いで、演劇論を検討し、演劇での科白と身体とを比較しながら、「身体の修辞」としての身振りを「反復」することの意義を明確にした。劇であれ日常であれ、身振りの反復や引用、あるいはそのアクセントが身体並びに主体のその時その場の意味づけを行い、これに対する生き生きとした実際の視覚それ自体を作り出すことになる。しかも、反復とは同一性の生成に留まることではなく、多様な「変様」を意味している。同一でありながらも異体を形成するものは「器官なき身体」として規定でき、視覚に訴える身振りとは、器官なき身体の端的な事例であるといえ、この概念のもとで身振りを見ることを捉え、変様と情念=主体との関連と観光文化の意義についての検討をおこなった。
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