本研究は、リアルな世界を眺める視覚とヴァーチャルな世界を見る視覚の競合が、どのような自己や精神、ならびに社会を構成するのかの「社会の視覚的構成」の問題に取り組み、ヴァーチャルな世界に対する視覚は単なる眼という「身体の拡張」ではなく「、精神の拡張」であるということを示すために行われてきた。本年度は、リアルな世界を見る視覚とヴァーチャルな世界を見る視覚とが、交叉し絡み合うことによる「自己」の存在や「精神」のあり方、これらと「社会」の構成との関係を比較検討し、これらの世界に対する「視覚の意義」を総合的に解明することを目的とした。とりわけ今年度は、ヴァーチャルな世界として、ブログ、ツイッター、SNS、YouTube、ニコニコ動画、Face Bookなどさまざまなインターネットの世界を扱うに先立って、以前から存在している書物としての「物語世界」を取り上げ、リアルな世界を見る視覚と物語というヴァーチャルな世界を見る視覚とはどのような形で関連し合い、人や社会はどのような影響を受けるのかを、リアルな世界や対象を意図的に見る旅行を通じて考察を行った。この両者の世界は、「パスカルのリマソン・ループ」という二重に交叉する関係として示すことが可能であり、ヴァーチャルとリアルの概念を、内部と外部、物語とフィギュア、対象と鏡像、作者と作中人物、画家とモデル、既存の道と迷路などに拡大もしくは変形し、視覚と物語の関連性を多様な事例を取り上げ検討した。ヴァーチャルとリアルとは、互いに、リマソン・ループでの排除と包含、除外と帰属、解除と拘束、例外と包摂を行い交錯、輻輳、混戦を繰り返しながら、新たな世界を製作してゆくことになるということを説明し、この内容を、『物語の視覚-リマソン・ループと<世界製作>』と題する論文にまとめ研究業績として示した。
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