研究プロジェクトの初年度にあたる本年度は、まず文献を用いてトランスナショナルな現象を理論的に定式化することに力を注いだ。特に、「国境を超える(トランスナショナルな)現象]として国際移民レジームに着目し、国際移民を包含する公共圏をいかに構築できるかという観点で考察を進めていった。まず、J.ハーバーマスの公共圏概念を検討し、国際政治学などの国際レジーム概念を検討した。そして、国際移民レジームの内容を精査した。その結果、国際移民レジームは移民規制機能と権利付与機能の矛盾する2側面で構成されていることがわかった。世界人権宣言を端緒として発達してきた権利付与機能が公共圏創出のために大きく寄与する可能性を秘めている一方、2009年9月11日の同時多発テロ事件など近年の国際テロリズムの影響などのため権利付与機能は十分発達しておらず、むしろ移民規制機能が国家間協力の下、肥大化する傾向にあった。そこで権利付与機能の発達を妨げている要因をいかに乗り越えることができるかを次の段階で研究していった。その結果、以下の4つの要因が取り出された。第1に、労働市場のグローバル化の不徹底。第2に、中央集権の欠如。第3に、組織化原理の欠如。第4に、イシュー連結の欠如。現実の国家間協力および、国家と各種アクターとの協働関係を鑑みると、権利付与機能に関わるイシューを別のイシューと連結させることが、最も実行可能な方策であることが確認された。 以上のような研究結果に到達する過程で、ハンガリー・ブダペスト、スペイン・バルセロナにおける国際学会、英国における研究討論、仙台における国内学会、その他国内における研究集会への参加は非常に有益であった。
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