昨年度までの研究を踏まえて、トランスナショナリズムと市民権制度の変容をアジア諸国を対象とした比較研究に拡張する試みを行った。今年度の対象は、日本、韓国、台湾に絞った。また、比較研究のための理論的視角として、「移民レジーム」を導入して各国の共通性と異質性を把握できる工夫をし、また「移民マネジメント」概念によって欧米諸国で近年活発に議論されているa 'triple-win' situationの創出に着目した。 移民レジームに関しては、日本、韓国、台湾ともにかなり近似した移民政策体系を持っていることがわかった。基本的には経済需要に見合うだけの最小限の移民を受け入れ、市民権的権利の付与を難しくするという排他的な政策であると言える。しかし一方で日韓台間で差異も存在した。特に同じエスニシティを共有するディアスポラ移民に関して、日本がいわゆる日系人政策により積極的に受け入れを行い非熟練労働の経済需要を満たそうとしていたのに対して、韓国は北朝鮮からのディアスポラ移民と、中国・CIS諸国からのディアスポラ移民で異なる政策をとっていた。また台湾はディアスポラを受け入れる政策を持たなかった。 一方、移民マネジメントの観点からは日本のケア移民政策を取り上げた。経済協力提携(EPA)と言われるフィリピン、インドネシアとの二国間協定や、送り出し国におけるケア移民の養成および選別の制度は、移民マネジメントが目指すa 'triple-win' situationを目指すものにも見える。しかし一方で日本がケア移民に課す厳しい選別要件は、いまだケア移民政策が移民たちに対する搾取の機能をも持つことを示している。 今後、移民レジームと移民マネジメントの観点を統合し、アジア諸国を含む各国の比較研究を遂行し、グローバルな観点からトランスナショナリズムと市民権制度の変容を明らかすることが望まれる。
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