本研究は、本州最北県、青森県津軽地方の人びとの生活史の検討を通じて、「地域を形成し人を留め置く力」〈ホールド〉の創出や喪失の諸条件を明らかにするところにある。 青森県には人口動態的に他県と比較して、1) 出稼ぎという労働慣行の持続、2) 90年代まで過疎化(人口減少)が緩慢であったこと、3) 2) は昭和一桁世代の出稼ぎからのUターンに支えられていた、という特徴がある。これらを重ね合わせて、作道(2006)は「出稼ぎという慣行の成立が人口流失を防いだ」と考え、出稼ぎが経済学的なプッシュ・プルに抗するように、「地域を形成し人を留め置く力」〈ホールド〉として働いたという仮説を提出した。 本研究は、青森県内での老人会を中心とした生活史調査(「津軽の人生」調査)と家族形態・労働観を探る量的調査との組み合わせで、この仮説の検証と一般化をおこなうものである。2008年度は、青森県黒石市温湯集落において、町内会役員組織、消防団、老人会などでインタビュー調査をおこなった。温湯集落は、共同浴場を町内会で運営する財産区である。この共有の資源を管理・運営することに多大な労力を必要とする地域である。そのため、他の地域と比較すると、地域に対するコミットメントや地域とともに住人の生活が特色づけられるともいえる。 この資源利用を調査することから、住人の労働のあり方、家族との関わり、地域住民同士の紐帯などが明らかとなった。それは一言で言えば、個人化と協働に特徴づけられる。今後、他の地域の調査をおこなうと同時にこの地域の量的調査をおこない、ライフヒストリーデータから得られた結果の検証をおこなう必要がある。
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