本研究は、本州最北県、青森県津軽地方の人びとの生活史の検討を通じて、「地域を形成し人を留め置く力」<ホールド>の創出や喪失の諸条件を明らかにするところにある。作道(2006)は「出稼ぎという慣行の成立が人口流失を防いだ」と考え、出稼ぎが経済学的なプッシュ・プルに抗するように、「地域を形成し人を留め置く力」<ホールド>として働いたという仮説を提出した。本研究は、青森県内での老人会を中心とした生活史調査(「津軽の人生」調査)と家族形態・労働観を探る量的調査との組み合わせで、この仮説の検証と一般化をおこなうものである。2つの調査をおこなった。 1.2009年度は、青森県黒石市温湯集落(人口546人、185戸)において、量的な質問紙による悉皆調査をおこなった。回収は348人、63%であった。温湯集落は、共同浴場を町内会で運営する財産区である。住民は温泉を観光資源として期待するとともに、静かな暮らしを評価もする両義的な心情をもっていた。温泉は依然として、年長世代には誇りでありノスタルジーの源である。このような心情と地域の記憶を町づくりに生かす方法を検討する。2.青森県大間町にて、出稼ぎ経験者のライフヒストリーの収集と資料調査をおこなった。北海道とのつながりと、地元出身者のネットワークの存在が確認された。今後は、原子力発電所設置にともなう社会変動の影響を検討する。
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