今年度は、大きくは2種類の調査を行った。ひとつは、昨年度(2009年度)から手がけている、宮城県・愛知県・広島県をフィールドとした旧自治省コミュニティ地区の事例調査(ケース・スタディ)である。これについては、各県における「モデル・コミュニティ地区」、「コミュニティ推進地区」、「コミュニティ活動活性化地区」をひとつずつ取り上げ、どのような経緯で地区指定されたか、指定によってコミュニティ・レベルの自治がどのように促されたか否かなどについて、事例に即して明らかにすることができた。もうひとつは、上越市をフィールドとした地域自治区に関する調査である。同市では、2009年10月から全市にわたって一般制度の地域自治区が導入されたが、旧市部の地区では、地域協議会の委員への立候補者が定員以上になることはなく、全国で同市だけに導入されている公募公選制が、必ずしも機能しているとはいえない。他方、旧町村部の地区では、地区内のすべての世帯が加入することを目指している「全戸加入型」の住民組織が全地区で設立されていて、地域協議会との連携が模索され始めている。この上越市の事例調査(ケース・スタディ)を通じて、地域自治区が実際に定着するにはどのような課題を抱えているかについて、一定の知見を引き出すことができた。このほか、昨年度実施した「アンケート調査」の分析をさらに進めたこと、旧自治省自身がかつて行った地方自治体のコミュニティ施策に関ずる調査について、再分析を試みたことも今年度の成果である(いずれも論文の形で公にした)。さらに、「地域自治の社会学」へ向けての理論的な整理についても、日本地域社会学会大会で、予備的考察として発表することができた。来年度(2011年度)は最終年度にあたるため、以上の成果をまとめてコミュニティ政策学会大会等で発表すること、そして、いくつかの追加調査を行って論文の形でまとめることを目指す。
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