高齢化や近年の新自由主義的な政策動向を背景に、離島の定住条件はこれまでになく悪化している一方で、環境や観光への関心の高まりから、都市住民と離島との交流事業が活発化している。本研究は離島の生活維持条件の実態把握を行うとともに、「環境共生」をキーワードに都市との関係を視野に入れて離島振興の糸口を探ることにある。この点に関し、豊島事件(有害廃棄物不法投棄事件)からの地域再生過程に関する調査を行い、以下の知見を得た。 1.離島の生活維持条件については、特に交通条件面での制約が大きくなっている。この点に関し、高齢化と無医地区化を背景とした島外への通院ニーズの増加とそれに関連した交通費負担の深刻化、島内における車に乗れない交通弱者の増加(自家用車の非保有層)とその実態について計量的に明らかにした。これらのデータは離島の今日的状況を把握する上で政策資料的な価値をもつものである。 2.豊島事件からの再生過程については、廃棄物処理にかかる環境政策が環境「産業」政策的な性格を強めていったこと、公害調停の最終合意で「離島振興を視野に入れた環境再生」が謳われたにもかかわらず、その後の政策的対応過程で離島振興対策(定住政策)は環境対策から切り離され、事実上放置されたこと、豊島事件後、島では都市住民との交流事業が展開し地域の活性化に一定の効果を挙げているが、それは主に環境問題や離島の自然環境に対する関心に根ざすものであり、離島の定住条件の改善には必ずしも資するものにはなっていないこと、等を明らかにした。これらは過疎対策と環境対策のジレンマを照射する意義をもつものである。
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