本年度は、研究の進展にあわせて大小5つの論文を発表することができた。これらの論文を本研究の主旨にそって分類すれば次のようになる。(1)失業論のおかれるべき見取り図を、雇用と社会的なものの関係性から素描するもの(「力の条件が失われるとき」)。完成されるべき失業論は、ここに明らかにされた社会的なものの働きとの関係で書かれる。(2)労働の科学的対象化すなわち力学的仕事の概念についての思想史的分析(『自由への問い第6巻』所収の「仕事と価値と運動と」)。本研究の考察する疲労は、ここで扱われた労働と人間身体への科学的視線の延長に見出される。疲労が生理心理学的対象であると同時に、経済学的対象であることを明らかにした。(3)都市空間の現状分析でローカルな地域性の意義を考察するもの(「場所闘争のためのノート」、『VOL Lexicon』所収の「都市への権利」)。労働と地理的空間の関係を検討することをつうじて、モダニズムと福祉国家の土台となる均質空間と郊外の関係を考察した。(4)研究全体を消費社会論の再検討をつうじて資本主義経済との関係における位置づけを明らかにする試みの一端(『社会学ベーシックス第6巻』所収の「記号の消費」)。本研究では表立った論点とならないが、しかし密接な関係にある消費社会状況を、非労働の観点から考察し、本研究のおかれる文脈を明らかにした。本研究それ自体を構成するものとして、また本研究の準備段階として、重要な論点を取り出して検討したものであり、不可欠の研究成果である。
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