2009年度の研究は以下の3点にまとめることができる。第1に2006年以降を中心とする開業医師の在宅医療実践とそこに生起する諸問題をとらえるために、文献資料を収集した。第2に、医療・看護・福祉関係者が集う全国レベルの大会に出席し、情報を集めるとともに交流をはかった。2009年度は兵庫県および山梨で開業する医師にインタビューを実施した。在宅医療および在宅ケアにかかわる全国規模の学会・研究会(高知、名古屋、長野、群馬、東京、千葉)に参加した。また、人口呼吸器をつけた子どもたちと親の会、市民による生と死を考える会に参加した。第3に、在宅医療を社会運動の視点からとらえ、2006年度の医療制度改革以前に行われていた医師や看護師等による独自の取り組みを歴史的に理解し記述するため、開業医師のライフヒストリーの聞き取りを継続した。インタビュー調査では、1990年代におこった<在宅ケアの全国ネットワーク化>の黎明期を支えた医師、および、緩和ケアおよび在宅医療にかかわる無床診療所の医師と有床診療所の医師、さらに有床診療所を開設後、経済的理由から閉鎖した医師を対象に実施した。以上の調査は、研究協力者とともに2名で実施した。 有床診療所という医療実践の特徴は 1)地域性 2)人間関係の個別性 3)医療者-患者・患者家族間の意思決定と伝達の迅速さ 4)多職種間の円滑な意思疎通 5)専門的サービスと同時に生活支援サービスの提供、という点で病院組織とは区別される。単身世帯化、家族の小規模化が進行する現代において、医療と生活支援の両機能を提供しうる有床診療所の役割と医療実践の有効性は評価される必要がある。当面の課題は担い手となる有床診の経営リスクを減らすうえで制度的支援(診療報酬制度)がこれに応えることが期待される。
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