本研究の目的は1990年代後半から顕著になってきたライフストーリー・アーカイヴ化の動向に着目し、その実態を把握するとともに、戦後、さまざまな文章運動や自分史ブームのなかで書かれてきた膨大なライフストーリーがアーカイヴ化のなかで個人的経験の語りから「歴史」へ変容する過程とこの動向が他国でも共時的現象であることの現代的意味を社会学的に解明することにある。戦後書かれたライフストーリー作品のゆくえをたどり、書かれたライフストーリーがどこでどのような場所を占め、いかなる意義をはたしているのかライフストーリー・アーカイヴ現象として注目し、その実際を明らかにするとともにアーカイヴ現象の社会学的意味を個人の<歴史化>と世代継承性という観点から実証的に調査研究することをめざしている。この研究課題の下、二年めの本年度は、昨年度の調査を継続してライフストーリー・アーカイヴの実態調査を中心に、(1)アーカイヴの実態把握とアーカイヴ関係者のインタビュー調査、(2)多様なアーカイヴの動向調査という二つの調査研究に取り組んだ。(1)のアーカイヴの実態調査では、沖縄戦体験に関わる沖縄県公文書館の活動に着目し現地調査する一方で、福岡県筑後市と愛知県春日井市という二つの地域における自分史収集・収蔵活動に取り組む組織の関係者にインタビュー調査を実施した。福岡県では自分史を書く文章運動グループの活動や愛知県では地方自治体の文化プロジェクトとしての自分史の収集活動を取材した。(2)の調査として、米国で南メーン大学においてライフストーリー・センターがすすめるデジタル・アーカイヴについてインタビュー調査をおこない、インターネット上のライフストーリー・アーカイヴの事例として調査し、日米両国で多様なタイプのライフストーリー・アーカイヴの実態調査を実施した。また個人の経験の語りの集積からいかに個人の<歴史化>を社会学的に考察できるのか検討した。
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