研究課題
これまで、戦争映画にせよ戦争を扱ったマンガにせよ、観衆・読者はそこでの戦争の語りをナショナリティの面から消費しているだけではなく、多くの場合、そこに描かれるジェンダー表象をも消費していたと考えられる。読者にとって、スクリーンや誌面に見ていたのは、戦場に赴く者だけの物語ではなく、彼を取り巻く家族関係や恋愛関係でもあったはずである。とくに娯楽として消費されるポピュラー・カルチャー(映画・テレビドラマ・マンガ等)の場合、そうした傾向が顕著であった。そこで本研究で明らかにしようとしたのは、(1)同時代において、戦争の語りとジェンダーの関係性にいかなる差異が存在したのか、(2)それらは、通時的にどのように変容したのか、(3)映画・テレビ・マンガ・ツーリズムといったポピュラーなメディアを横断して、そこでの言説・表象にいかなる連続性や断絶があったのか、といった問題である。方法は、映画、テレビドラマ、マンガなどのテクスト分析が中心である。さらに、ここでは戦跡ツーリズムもメディアのひとつとしてとらえ、「ひめゆりの塔」や「広島平和記念館」などにも出向き、戦跡観光のガイドブックなども分析対象に加えた。結論として、上記の(1)および(2)の問題は、戦後の再軍備や安保闘争、あるいは沖縄返還や教科書問題などと密接にかかわっていることが明らかになった。さらに(3)に関していうならば、社会情勢とも関連する部分があるものの、それぞれのメディアの特性に大きく規定されているということが立証された。概して言うならば、本科研での研究目的は達成されたといえる。なお、この成果は『反戦と好戦のポピュラーカルチャー』(既に脱稿済み。平成23年9月発刊予定)によって発表する。
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