本研究は、戦後日本における家族社会学の成立と展開を、終戦直後から1970年代にかけての約30年の時間幅のなかで検討するものである。最終年度にあたる3年目の今年度は、研究課題のうちもっとも新しい時期である家族社会学の隆盛期といわれる1970年代に焦点をあてて、1960年前後に成立した家族社会学の、その後の展開の特徴を明らかにすることを研究目的とした。 そのために、1970年代の家族社会学の展開を文献資料にもとづいて検討する作業と併行して、この時期に重要な役割を果たした上智大学名誉教授の目黒依子先生にインタビューを行った。目黒先生は1950年代後半からのアメリカの大学の学部への留学を経て、1971年からはさらに大学院に留学し、1974年に帰国して以降は上智大学の教員としてアメリカの新しい家族社会学研究の理論と方法ならびに研究成果を積極的に日本に導入した。インタビューでは、目黒先生からみた当時の日本の家族社会学研究の印象、それと比べてのアメリカの家族社会学の状況や印象、さらにはアメリカの最先端の家族社会学の研究成果を日本に紹介し導入する上での困難やエピソードなどをお聞きした。 今年度の研究の成果は、すでに文献研究でも同様のことが示唆されているが、家族社会学の隆盛期ともいえる1970年代の展開期が、その後の転換期を胚胎する序曲であったということがインタビューからも明らかになったことである。目黒先生がアメリカの成果を日本に導入したソーシャルネットワーク研究とジェンダー研究は、その当時の日本の家族社会学に新たな研究の展開をうんだが、その一方でそれらは、それまでに成立していた家族社会学の理論と方法に対しては批判的な立場をとるもので、その点で1980年代の家族研究の転換期を必然的に予告していたといえるのである。
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